過去事例Ⅱ
戸建て住宅のハウスメーカーからの依頼でした。
築5年の2階建て木造住宅で、2ヶ月前の霧雨程度の雨の日に住宅の中心部にあたる1階廊下天井よりボタボタと漏水が発生したということです。その直上は同じように2階の廊下です。
私たちに相談する前には、ハウスメーカーでも工事業者を使って何度か散水テストをしてみたところ、全く漏水を再現することが出来ず困り果てたということです。
そこで、藁にも縋る思いで私たちに調査依頼をしてきたという経緯がありました。
現地は、400kmも離れた遠方なので、図面や写真等の資料を郵送してもらいました。
届いた資料と漏水発生時の過去の天気やそれ以降の天気情報を収集したうえで、調査スタッフを集めて検討を重ねましたが、これぞという決め手が見えませんでした。
漏水発生時の雨より、数倍も強い雨風が何度かあったにも関わらず、その後全く出ていない、ただ一度だけの漏水なのです。
とにもかくにも受注したので現地へ行ってみる事にしました。
最初に漏水箇所の近くにある廊下天井の照明器具を外して天井裏を覗いてみましたが、漏水の痕跡は全く残っていず、手掛かりすらつかめませんでした。
一過性の漏水は、痕跡が残らないものですね。
次に、漏水箇所に比較的近い外壁面を観察して見ましたが、これも決め手になるような被疑箇所が見当たりません。
外壁面が漏水原因ではないことを証明する必要もあるので、散水テストは一応実施しました。
やはり、漏水の再現には至りませんでした。
ここに至り、私たちも大いに弱りました。
漏水発生時は霧雨程度の天候なのに、その後の数度の大雨に見舞われても全く出ない漏水とは何故だろうという壁に突き当たりました。
こうして調査1日目は、結論が出ず翌日に持ち越しとなりました。
宿舎に着いてから、翌日の調査方針を検討していた時に、調査スタッフの一人が心に引掛かっている事を話しました。
それは、2階の納戸の中に備蓄用飲料水の入ったペットボトルのケースが数段積まれていたということでした。もし、最下段のペットボトルが重さに耐えかねて割れたら、漏水が起きるのではという大胆な発想でした。
この推理に従って検討してみると、なるほど実際に起きた現象と実によく整合性が取れ、たった一回だけの漏水をうまく説明できるのです。
つまり、雨が原因ではなく所有者の偶発的な過失から漏水が発生したのではと考えられたのでした。
翌日は、ご主人も在宅しておられ、玄関先にて勇気をもってこの推論を話してみました。
それでは、一緒に納戸の中のペットボトルを外へ出してみましょうということにあいなりました。
こちらも(間違っていたらどうしようと)ドキドキしながら手伝いました。
そうすると、納戸の奧側の一番下に段ボール箱があり、この表面がぐっしょり濡れているのを確認しました。
段ボールの中身はミネラルウォーター10㍑入りのポリ容器が2個並んで入っており、このポリ容器の下側に亀裂や穴がありました。
段ボール箱は逆さまになっており、ポリ容器の把手のある面が下になっていました、つまり凹凸が多い角部に集中的に水圧や重量が掛かり破損したものと考えられます。
これから漏れ出た水が2階床下を流れ、横移動して当該箇所の1階天井から下に落ちたものでしょう。
結局、本件は雨漏りではなくお客様の不本意な過失からきたものだということが判明したのでした。