ある年の師走も押し詰まった25日、26日の2日間の予定で雨漏り調査依頼がありました。
こちらとしても、決着をつけて気持ち良く新年を迎えたいところではあります。
まずは、建物概要や漏水状況を説明しましょう。
建物概要:RC造(鉄筋コンクリート造) 地下1階、地上6階建て 2003年竣工
建物用途:地下1階~2階 貸店舗、3階~6階 賃貸マンション
漏水は、地下1階店舗に降りる吹抜け階段上部の梁側面から発生しています。
長期間漏水しているコンクリート構造物によくある、特徴的な白華現象(またはエフロレッセンス、略してエフロ)が見られます。

※白華現象(エフロレッセンス)
コンクリートひび割れ等を水が通過する時に一緒に成分が溶出し、外気に触れて結晶化し、白色や茶褐色の汚れが出来る現象。
(景観的にもマイナスです)
吹抜け階段は変則的なレイアウトです。地下1階と上の2階へ行くための専用階段です。
階段までのアプローチ床面は石張りで直接雨掛りする場所です。
アプローチ床面には、埋込照明が4基と目皿付き排水口があります。(平面図参照)

漏水は少量で、一定間隔でポトリと落ちる程度です。
雨がしばらく降らなくても、継続的に漏れるということです、水は無色無臭です。
さて、これらの漏水現象・現場状況をひと通り見た結果から要点を整理しましょう。
①長期的、継続的な漏水
②漏水量は少量
③水は無色無臭
皆様の第一感では、「配管からの漏水」を考えられるのではないでしょうか?
しかし、現場周辺を見回してもパイプシャフトもなく、露出配管の類もなく、水を必要とする設備もなく、階段だけの機能しかないので、これは除外するしかありません。
次に「雨水がどこかにプールされている」と考えました。
そこで着目したのが階段までのアプローチ床面です。
アプローチ床面には、埋込照明が4基ありますが、その周囲のシーリングが劣化して所々剥がれています。

このアプローチ床面は地下1階に対してはルーフバルコニーとしての役割も兼ねています。
なので、おそらく下断面図に示すような防水仕様になっていると考えられます。

埋込照明周囲より浸入した雨水が、防水層とコンクリートスラブの間にプールされる。
または、コンクリートのポケットにプールされるという仮説を立てました。
それでは、これをどう立証するかという事になります。
今回は、散水手法を使えません。
撒いた水が階段を滝のように流れ落ちて、地下1階では収拾つかないことになります。
そこで、4基の埋込照明の周囲に堰を造り、水張りをすることにしました。
なお、現在進行形で水が垂れている中での作業なので、水張り液には蛍光液を使って、前者とは区別化します。
この蛍光液は、ブラックライトを当てると青白く光ります。

下写真は、ブラックライトで照らしたものです、周囲が明るいので微かに青緑色をしています。
暗い場所では、もっと鮮やかに見えます。
注入水位は、ガラス押えリングまでとします。

水張り液は、1~2時間ほどで空になりました。
この水が減少するという事は、狙い通り中に入っているということになります。
減っては継ぎ足しを繰り返します。
後は、時間の問題です。
地下1階に垂れている水が変化して青白く光るのを待つのみです。
ところが、待てど暮らせど、垂れてくる水はただの水なのです。(泣)
地下店舗は、居酒屋さんが使っており16時開店という事なので、夕方には調査を中断して堰を一旦壊しました。
翌日、新たに堰を造り、水張りをしました。
調査2日目の午後になっても結果が出ないと、自分の立てた仮説が正しいのかと不安になります。焦燥感が漂います・・・・・・・。
暇なので、垂れている水滴の間隔を計ってみることにしました。
それは、3分、4分、3分、4分という規則的な繰り返しでした。
平均3.5分に1滴落ちるという超スローペースでした。
計測するのにも根気がいりますね・・・・。
さて3.5分に1滴というと、1日では何滴になるでしょうか?
計算したところ、一日=24時×60分=1,440分、これを3.5分で割ると大体410滴になります。
では、1滴は何mlでしょうか?
調べたところ、1滴は0.03~0.05mlでした。
計算上では真ん中を取って0.04mlとしましょう。
1日では、410×0.04=16.4mlとなりました・・・・1日でたったこれだけ!?
6日間で、やっとコップ半分の量です。
因みに市販の目薬1本が15mlです。
さて、それでは蛍光液が出てくるのはいつになるのでしょう。
調査以前にプールされていた水が出切ってから、蛍光液という順番になるのですが、これまでにプールされていた分量が分かるはずもなく予測がつきません。
結局のところ、予定していた2日間では蛍光液が出てきませんでした。
自分の仮説を自問自答してみましたが、埋込照明のシールしか考えられず、時間の問題だ!出るはずだ!という結論になりました。
翌日の27日からは会社も正月休みに入りましたが、単独で確認しに行ってみました。
しかし、ただの水のままです。
往復3時間掛かるも空振りです。
さらに一日置いて29日にも行ってみました、これで蛍光液が出てなかったら諦めようと・・・・しかし・・・・ただの水のままでした、落胆することこの上なし。
傷心のまま帰ろうとするも、時は昼時、落胆してもお腹はすくものです。
現場の隣にあった食堂に入り、注文して待つ間に、重要なことにハタと気付きました。
なんと、財布を家に忘れて来たではありませんか、最悪~~、電車の改札はスマフォタッチで通るので、この期に及ぶまで気付きませんでした。
一縷の望みを掛けてレジの係に「ここ電子決済出来ますか?」と聞くも、無情にも「ウチはやっていません!」と。
店長さんに掛け合いました。
「名刺ある?」、「財布に入れてたものだから、今は持ってないです」、「取りに帰れる?」、「往復3時間かかるんです」、「では、このメモ用紙に携帯番号と住所名前を書いて」ということに相成り、後日返却に上がるということになりました。
「年明けてからでもいいよ」と言う、優しい店長さんの言葉。
こちらとしては、借りを作ったまま新年を迎えたくありません、31日に返しに来ますと約束。
この日は調査結果も出ず、無銭飲食とのダブルパンチで心も折れてボロボロ、帰りの足取りの重いことこのうえなく・・・・。
ということで図らずも31日(大晦日)にお返しに伺う次第となりましたが、せっかくだから微かな望みをつないで現場も見てみることにしました。
さて、当日朝、少しは期待、いやそんなにうまいことが起きるものかと、自分で自分をたしなめがらも現場へ行ってみました。
すると、なんと待望の青色に発光する蛍光液が出ていたではありませんか!?
調査初日の25日からは、すでに6日間経過していました。
周囲には誰もおりません、一人、拳を握りしめ、小さな声で快哉を叫んでおりました。
ヤッター!! ヤッター!! と年甲斐もなく。
次に証拠写真を撮らねばなりませんが、蛍光液を撮影するためには薄暗い中でもノーフラッシュでなければなりません、三脚もないので手振れしてピンボケになります。
何度も撮り直しました、左手にブラックライト、右手にカメラ、足はつま先立ちという不安定な格好なものですから。

なんとか撮影を終えた後、食堂の店長さんには、重ね重ねお礼を申し上げて支払いを済ませ、無銭飲食の不名誉を解消しました。
もし、財布を忘れてなかったら、わざわざ大晦日に現場へは行かなかったでしょう。
不幸中の幸いというのでしょうか、実に幸甚でした。
信仰心の薄い私ですが、この日ばかりは神様、仏様、イエス様に感謝、感謝でした。

